
Al-Rashid Street in September
9月のアル・ラシード通り
Overview
2023年から約2年にわたり繰り返された空爆により、ガザは見渡す限り瓦礫の街並みと化した。その風景はまるで原爆投下直後の広島のようである。 2025年9月9日、イスラエル軍はソーシャルメディアや空中に投下したビラを通じて、ガザ市全域の住民に対し、アル・ラシード通りを経由して南部のアル・マワシまで避難するよう呼びかけた。 9月14日にイスラエル軍は作戦を強化し、未だ残る市民への再警告を発した。 市民は退避命令を受け、一斉に移動を始めた。大量の荷物を積み上げた車やトラック、馬車が行き交い、着の身着のままの人々が慌ただしく逃げている。 避難民で溢れかえり、砂埃舞う道路のわきで、休息のためテントづくりにいそしむ家族がいた。父親を手伝う子どもたちの顔には疲弊の色が浮かんでいる。 テントが完成し、一家はようやく食事を取る。戦禍の中でも、家がなくても、生活は続いていく。 9月16日、予告されていたイスラエルの地上軍事作戦が開始され、ガザ北部での戦闘はさらに激化した。この日のアル・ラシード通りでは数千人規模の避難民が南へと向かった。 ガザ市内から避難する子どもたち。4時間か、5時間か、6時間か──どれほど歩いたのかも分からなくなるほど、歩き続けている。 美しい地中海沿いにもテントが連なっている。 火の燃料になりそうな資材をかき集める父親、かまどでパンを焼く母親、海に水を汲みに行く少女。時には紅茶をたしなみ、海水浴をする人々。 そんな彼らを照らす太陽はいつも通り沈み、また昇る。 避難しながらもそれぞれの知恵を絞り、多様な生活を日々営んでいる。 アル・ラシード通りについて パレスチナのガザ地区、ガザ市の海岸沿いを走る主要な道路。 2005年からイスラエルに包囲されているガザ地区では、電力の供給が安定せず、1日最高20時間に及ぶ停電が起こる。真っ暗になった自宅で過ごしたくない人々は、夜にアル・ラシード通りに集まってくることで知られていた。通り沿いの出店は発電機を駆使し、集まる人々に灯りを提供していた。夜に灯りがない環境の精神的影響を考慮して、親が子供を連れてアル・ラシード通りを訪れることもあった。 また、長年のイスラエルによる空爆で自宅を失った人々は、無事な家族や親戚の家に身を寄せていることから、住宅内には多くの人数が生活をしている。「満員の」建物から逃れるためにアル・ラシード通りに集まり、そのまま通り沿いの浜辺で就寝する人たちもいた。若者たちが友達同士で集まるのもこの通りであった。 2023年10月7日以降、ガザ地区での飢餓が報じられた。多くの住民が、救援物資を積んだトラックが検問所を通って北部に入域するのを待ち構え、アル・ラシード通りに集まった。 2024年2月29日の「小麦粉虐殺」では、小麦粉を積んだ搬入トラックが検問所を出た時点で、物資を求める人々がトラックに群がったが、多くの人が銃撃と砲撃を受け、少なくとも112人死亡、760人以上が負傷した。これに対しイスラエル軍は、「押し寄せた人々が混乱を引き起こしたと」とし、部隊を脅かす「数人」に発砲したと述べたが、病院に運ばれた死傷者のほとんどに銃創が認められた。 小麦粉を取りに行かずに命が助かっても、代わりに餓死するしかない。以降も搬入トラックを目当てにアル・ラシード通りに集まる人の数は後を絶たず、更なる銃撃で死傷者がでた。 繰り返される「避難命令」 まず大きな特徴として挙げられるのが、避難命令が一度きりではなく、短期間に何度も繰り返されている点である。イスラエル軍は空爆や地上作戦の前に特定の地域からの退避を呼びかけるが、対象地域が次々と変わる。そのため、住民は一度避難してもそこに安全に留まれるわけではなく、生活の拠点を持てないまま移動を繰り返すことになる。 こうした状況で、ガザ地区の住民の大多数が避難を経験しているとされている。人口のほぼ全員が一度以上の避難を強いられ、多くの人が複数回にわたって移動している。ガザの大部分が避難対象区域に指定されることもあり、安全な場所自体が極めて少ない。 さらに問題視されているのが、いわゆる「安全地帯」とされた地域でも攻撃が行われている点である。避難先とされた地域でも空爆が行われるケースが報告されており、住民にとっては「避難すれば助かる」という前提が成り立たない状況になっている。 また、そもそも避難命令に従うことが難しい人々が多く存在する点も重要である。高齢者や障がいのある人、負傷者などは長距離の移動が困難であり、避難の途中で命の危険にさらされることもある。さらに、病院や医療施設にいる患者や医療従事者にとっては、移動そのものが重大なリスクである。こうした人々は避難命令が出てもその場に留まらざるを得ず、結果的により大きな危険にさらされる。 加えて、避難の繰り返しは人々の生活基盤を著しく破壊している。何度も移動することで家や財産を失い、食料や水、医薬品といった基本的な生活資源へのアクセスも困難になる。避難先ではテントや仮設施設での生活を余儀なくされることが多く、過密状態や衛生環境の悪化も深刻な問題となっている。長距離を徒歩で移動するケースも多く、特に子どもや高齢者にとっては大きな負担である。
- Director
- ムハンマド・サウワーフ 撮影:イブラヒム・アル・ウトゥラ、ハッソナ・アル=ジャルジャウィ ナレーション:ガダ・アブド・アルファッタ 編集:芝暢佑 整音:真野悠作 配給・宣伝:アップリンク